2006年 04月 21日
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カブトvs響鬼
くるくると、長大な武器が宙を舞う。
長いネックに巨大な板状の尾部。尾部の先端には、鋭利な刃が組み込まれている。シルエットだけなら、いささか不格好な斧か鉾に見えたかもしれない。 だが、ネックの先端から尾部に向けて張り巡らされた数条のストリングが、その武器が楽器の性質も備えていることを静かに主張している。 その戦うギターが、くるくると宙を廻ること二度、三度。 「迅……いッ!」 がらん、という落下音と共に響くのは、弦の鳴る空虚な音と、主たる戦士が吹き飛ばされる、鈍い衝撃音だ。 こちらの戦士もシルエットだけなら人の姿をしているが、てらてらと鈍く輝く表皮や角状の突起物を生やした頭部は、間違いなく異形のそれ。 むしろ、怪物や化け物……そう。『鬼』、と言ったほうがしっくり来るか。 「轟鬼っ!」 轟鬼と呼ばれた異形の向こう。やはり駆けてくるのは、轟鬼に似た貌を持つ鬼神。 「響鬼さんっ! こいつら、今までの魔化魍じゃないッス!」 響鬼と轟鬼。 二人の間にいるのは、二メートルほどの怪物の一群だ。巨大な種子に手足を生やしたような不格好なそれらは、二人の怪人物の動きを阻むようにその矮躯を蠢かせている。 「そんなことはおやっさんからとっくに聞いてただろ? 文献にも載ってない新種の人型魔化魍が、色々と悪さしてるって」 だが、見たことのない相手にも、響鬼が怖れる様子はない。腰に提げた二本の短杖を引き抜くと、くるり回して両手に構える。 「ヤッ!」 すり抜けざまに、打撃を一つ。 どどん、と心を揺さぶる音が鳴る。 「シャッ!」 二つめの打撃で、響鬼の体が赤く燃え上がった。 紅に猛る焔は真紅をまとう響鬼の体を駆け抜けて、魔化魍と呼ばれた怪物へ吸い込まれていく。炎が描く巴の紋がぎゅるぎゅると唸りをあげ、魔化魍の妖気を浄化しているのだ。 「破ァッ!」 三撃目が響き渡ると同時。 打撃を打ち込まれた三体の魔化魍が、同時に炸裂した。 「響鬼さんっ!」 こちらも拾い上げたギターで魔化魍の一体を浄化し、轟鬼が叫ぶ。 「情けないぞ、轟鬼。この位の相手に手間取るようじゃ、斬鬼さんも浮かばれ……」 そう小言めいた事も言うが、轟鬼の使うギター……音撃弦……は、もともと大型魔化魍用の音撃武器だ。人型魔化魍のように小回りの利く相手には、いささか相性が悪い。 「違うッス! ホントに強いのはこいつらじゃ……」 「何っ!?」 その瞬間。 叩き込まれた『見えない一撃』を受け流せたのは、響鬼の戦士としての勘だったのだろうか。 「ここは……?」 男は、呆然と辺りを見回していた。 渋谷だ。 それは、分かる。 だが、日も高いこんな時間、渋谷の駅前に誰もいないということがあるだろうか? 「変だ……」 渋谷駅を出て右手にあるはずの109は左手にあるし、エクセルホテルは左手にある。その上、109の文字が鏡映しだ。 「まさか……!」 そこに至って、男はある考えに思い至った。 「いや、そんなはずは……」 しかし、その考えを男は必死で否定する。 鏡の向こう側の世界。その世界は、既にこの世との繋がりを失い、消え去っているはずだ。 「そうだ。そんなはずはない。俺は、『あの姿』になっていない……」 そう。あの世界には、生身の姿では入れない。契約を失った男は、もはや入るための手段も持っていないのだから……。 「あァら。こんな所に居たワ」 どこかからかうような声に振り向けば、そこにいたのは異形の生物だった。 「誰……だ?」 警戒心を刃に変えて、言葉に乗せて突きつけようとした男だったが……『そいつ』の容貌に、思わず毒気を抜かれてしまう。 男が最初に思い出したのは、関西への修学旅行で見た、太陽の塔だった。あれを幼稚園児に描かせて、赤ん坊に仕上げさせれば、こんな感じになるだろうか。 もちろん、男の戦いの記憶の中にも、そんな不可解な物体に関する知識などない。 「アタシは『ねいど』。この、妖逆門の進行役よン」 男の反応など慣れたものなのか、『ねいど』と名乗った変な物体は優雅に一礼してみせる。 「ばけぎゃもん……?」 「そう。アタシたち妖怪の始めたげぃむ。アナタはオトナだけど……どうやら、ぷれい屋として認められたみたいネぇ? 今年二人目の例外か……ま、いいでしょ」 ねいどはイレギュラーな事態にも、ケタケタと嗤うだけだ。同じ進行役でも男の知る進行役と違い、かなりいい加減な性格らしい。 「じゃあ、ここは……『ミラーワールド』じゃないのか……」 「ここは逆日本。妖逆門の、舞台となる場所よン」 「それで、俺はまた誰かの始めたゲームとやらに、巻き込まれたわけか……」 笑いながら宙を舞うねいどに、男は静かに呟く。 その言葉の中には、驚きも喜びもない。 「ルールは簡単」 「最後に残ったヤツが、ひとつだけ望みを叶えてもらえる……そうだろ?」 呟く言葉に在る意志は、怒り。 「あらン。もしかして、前の妖逆門のぷれい屋?」 ねいどの甲高い声に、男の身が弾けた。 「そんなモノは知らない! だが、そんな勝手なやり取り、俺はもう二度と許す気にはなれないんだよ!」 言葉と共に伸びるのは、左腰に提げられた小箱状の機械。強く強く握り締めると同時、右手はポケットの中に叩き込まれる。 「俺が来てるんなら、お前も来てるはずだよな……」 かつての戦いの時。いつもあれが有った場所。 やはり、あった。 形を変えてもなお、それはその場所に。 握り締め、引き抜く。 手の内のあるのは紅の撃符。 描かれるのは、紅の機械龍。 「コイツ、撃盤の使い方を……っ!」 「分かるさ!」 そして男は力を放つ。 -Advent- 戦場と化した逆渋谷に、無機質な機械音声と龍の咆声が木霊する! 弾き飛ばされた音撃棒をわずかひと挙動で拾い上げ、響鬼はアスファルトに覆われた地面を転がった。 「何だコイツ……っ!」 歴戦の鬼である響鬼は、かつて様々な魔化魍と戦ってきた。強いもの、迅いもの、大きいもの、見えないもの。そのいずれも倒してきたし、生き残ってきた。 だが。 ここまで迅い相手は初めてだった。 迅い。 ひたすらに、迅い。 今までも迅い相手はいた。見えない相手もいた。ある時は相手の殺気を感じ、またある時は吹き付ける風で相手との間合を計り、響鬼は勝ち残ってきたのだ。 しかし、今度の相手はそれよりもはるかに迅い。殺気も風も、感じた瞬間は既に打撃を受けた後。 まるで、時の流れの外にいるかのような、相手。 幾度も受けた斬撃が致命傷に至っていないのは、響鬼の超人的……いや、神業的な反応速度と、鍛錬のたまものと言っていい。 「響鬼さん! 轟鬼さん!」 そこに姿を見せたのは、三人目の鬼だった。 「そうだ! 威吹鬼さんの音撃射なら!」 轟鬼の思いつきに響鬼もああと首を振る。 銃使いである威吹鬼の音撃射は、空中の高速な相手を捕らえるための武器だ。格闘主体の響鬼や轟鬼よりも、相性はいいに違いない。 「威吹鬼、迅いのが居るんだ! そいつを任せる!」 「分かりました!」 別の空間から抜け出るように。 ふいと浮かび出た蒼い魔化魍へ照準を合わせ、威吹鬼は音撃射のトリガーを引き絞る。 砕け散っていく光の中から姿を見せたのは、一人の男だった。 「ふう……」 見上げた空は、曇り空。 こちらに来てから、ずっとこうだ。 「どこなんだ、ここは……」 背後にそびえるのは、確か明治神宮の大鳥居。 明治神宮があるからには東京ではあるのだろうが、見る文字全てが鏡写しの文字になっているのには、正直参っている。少なくとも、まともな場所ではないのは、間違いないだろう。 「それよりも、貴様こそ何者だ……蒼い剣士よ」 叩ききられ、ブスブスと白煙を上げる妖怪の問い掛けに、男は肩をすくめる。 「人間か。はたまた我々の同類か……」 それが、妖怪最後の言葉だった。 紅い輝きと共に妖怪は一枚の符に転じ、男の手の内にすいと入り込む。 「貴様が何者か、見せてもらう……この私を倒した、貴様がな」 「さあな」 ぶっきらぼうにそう呟き、男は撃符となった妖怪をポケットに放り込む。 「とりあえず人を探すしかない……か」 そして男は歩き出す。 「ときに剣士、名は何と云う」 「ああ。剣崎一真だ」 邂逅の場所、渋谷へと。 『そいつ』は、目の前にやってくる弾丸をゆっくりと眺めた。 遅い。 時の外に流れ出た『そいつ』からすれば、あくびが出るほどに。 歩き出す。 走りはしない。そんなことをすれば、すぐに戦いが終わってしまうから。 -KICK- 『そいつ』は歩きながら、腰のホルダーから取り出したカードを、提げた刃に一枚ずつ滑らせていく。 -THUNDER- そいつを倒すため、直線軌道を描いて飛翔する鬼石の横を悠然とすり抜けながら。 -MACH- 彼……こいつの『オリジナル』を基準に考えれば、彼と呼ぶべきだろう……にしか聞こえぬ声と共に、刃を溢れた雷光が、彼の右足に絡み付く。 『Lightning・Sonic』 右足に紫電を撥ねさせながら、刃を大地に突き立て停止。一撃必殺の雷撃蹴を放つため、身を低く構え直す。 目の前の三人がその動きを知覚した時には、全てが終わっているだろう。 三人の敗北という形で。 だが。 有り得ないことが起きた。 「おばあちゃんは言っていた……」 -Three- 声。 聞こえるはずのない声に、彼は後ろを振り向いた。 「子供のケンカに親が出るな」 -Two- 彼は今、時の外にいる。 その彼に声を届けられるという事は。 「だが、向こうが出てきたら容赦はするな、とな」 -One- 迅い。 「ライダー・キック」 そいつが最後に見たのは、螺旋に叩き付けられた鮮烈なる紅い色。 -Rider Kick- 男が如何にして間合を詰めたのかも理解できぬまま。 剣崎一真に擬態したワームは、時の狭間で粉々に砕け散っていた。 「な……っ!」 突如として爆散した魔化魍に、最初に歓声を上げたのは轟鬼だった。 「やった! やりましたよ! 威吹鬼さん!」 だが、攻撃者である威吹鬼は黙ったまま。 彼は分かっているのだ。鬼石の弾丸に、それだけの破壊力がないことを。弾丸はあくまでも、その後の音撃に繋げる踏み台でしかないことを。 いや。そもそも、威吹鬼の弾丸は相手に届いていない。 「違います、轟鬼さん」 「えっ!?」 威吹鬼の言葉と共に、風が吹く。 散らされていく硝煙の向こう。 異形の三人の前に姿を見せたのは、深い紅の鋼戦士。 すいと立ち、構えた指で太陽を示すその姿は、極めた武術の構えにも、名工の仕上げた彫像のようにも見える。 「誰だ、お前……」 響鬼の静かな問い掛けに、戦士は悠然と答えた。 「天の道を往き、総てを司る男……」 ワーム、魔化魍、そして妖怪。 日本と逆日本を舞台に、カブト達の新しい戦いが加速する! ~妖逆門と七人の仮面ライダー~ 「お前が黒幕か、乾巧……」 -Clock UP!- 「……言ってろ」 -Start up!- 「天道! そいつは……そいつはっ!」 カッとなってやった。だが私は謝r(ry
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| 2006-04-21 00:00
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